No.1059 ≪経営者は「北極星」をもとう。≫-2019.4.11 |
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2019/04/11 Thursday 10:16:32 JST | |
No.1059 ≪経営者は「北極星」をもとう。≫-2019.4.11 目加田博史
あなたは道に迷った時、どうしますか? 人に聞きますか「私の行くところはどこですか」って。スマホで居場所を確認しますか? コンビニに入り地図を買いますか? 電話をかけますか「ここはどこ? 私は誰?なぜここにいるの」って。しかし、真夜中で、人もいない、コンビニもない、スマホもない時はどうしますか? ある食品メーカーのA社長の事例です。研究開発が得意なアイデアマンで、今までヒット商品を数多く世に出してきました。しかし、消費者の嗜好の変化で市場は縮小しており、将来の展望に不安を感じていたこともあり、第二の柱を探し求めていました。飲料事業をやらないかと友人に誘われ、新規事業として飲料事業の合弁会社を設立することを決めました。 祖業の食品製造とは製法も設備も業界慣習もまったく異なるので、初めは固辞していたA社長も、全国の各地で同じ事業を展開している仲間と話しているうちに、自分でもできそうだと思うようになり、次第にそれが確信となっていきました。仲間の社長が言うには、ネットワークにはプラントメーカー、資材メーカー、生産会社、販売会社とそれぞれの専門家が参加していること、各社の社長が合計で40%出資すること、販売先が決まっており、生産できた分だけ全量買い取るシステムなので販売の心配がいらないこと、数億円かかる製造設備も国の補助金をうまく使えば、実質1/3の投資で済むこと、製造ノウハウはすべて教えるので心配いらないこと、工場は当面は公営レンタル工場で賄えること、計画では数年で設備償却ができ利益も出せること、といいことづくめです。 ネットワークのメンバーが事業計画書を作成し、政府系の金融機関、地元の役所に提出すると、仲間の会社の実績もあり、すんなりと受理されました。すぐに合弁会社を設立し、公営レンタル工場の認可もすぐにおりました。 腑に落ちないところも多かったので、A社長に関連資料をいただき、私なりに分析と検証を行いました。まず、事業主体は本当にA社長がやるのか。 2年後、A社長が大量の会計書類と伝票の束を持って私に会いに来られました。聞くと、待ちに待った設備が完成したのは計画より6か月以上後だったこと、採用された社員は固定費を増やす以外は何もすることがなかったこと、原料が搬入され試運転が始まったが計画されたスピードの半分しか生産できないこと、歩留まりも計画の半分しかなく不良品の山になり販売先を開拓する以前の状態であること、計画でも初年度は赤字予算だったが想定を大幅に超える赤字になったこと、今年はもっと赤字幅が広がること、オープン当初は頻繁に来ていた出資各社のトップが来なくなったこと、借入金の返済は連帯保証人としてA社長の会社に督促が来ている事、常駐して金融機関との交渉を一任していた出資会社の役員が辞任したこと、金融機関からの改善要求や改善計画書作成要求が激しくなったこと等を話してくれました。 「実際のところはどうなのか、分析してほしい」という依頼でした。段ボール3箱はあったと思いますが、資料を分析しました。結論から言えば、創業2年で10億円単位の負債で、唯一の資産である生産設備はカスタマイズされているため分解し移送するだけで億単位の費用が掛かかるため、債務超過からの脱却は困難で、出資各社が負債を消すだけの追加出資をするか、臨時総会で破産決議するかしかないと伝えました。放置すれば、A社長の会社が立ちいかなくなってしまいます。 甘い話に乗り、身から出たさびとはいえ、蟻地獄に陥り、だれにも相談できず一人で問題を抱え込んで、暗中模索しているうちに、行き詰まってしまいました。それは、A社長が道に迷った時に判断する原点である「北極星」を持たなかったことが大きいと思います。冷静に自社の体力や能力を分析し、分を弁えた判断をするには、常に「北」を示す自分の「北極星」を持たねばならないのです。
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最終更新日 ( 2019/07/05 Friday 17:26:23 JST ) |